種子繁殖型品種で生まれる変革

その1:種苗供給が変わる

これまでの栄養繁殖型品種は年間増殖率は40倍程度。都道府県単位で種苗供給体制が整えられており、公的関与による原々種の供給、都道府県レベルの生産者団体による増殖、地域農協レベルの増殖、生産者による自家増殖と、4年4段階の増殖過程を経て種苗が供給されていました。この都道府県単位の種苗供給体制も、施設の老朽化や病虫害対策の難しさが原因となり、近年では崩れつつあります。これに対し、種子繁殖型品種では、親株1株で5000粒程度の種子を楽に生産することができます。国内で必要な年間4億株の種子は、数社程度の種苗会社で供給することが可能になります。

その2:栽培体系が変わる

これまでの栄養繁殖型品種では、前年に親株を準備しておき、それを春に定植(親株定植)し、春から夏にかけて発生するランナーで子苗を増やします。夏を越して秋に向かう短日低温条件で花芽を形成し、9月に定植(本圃定植)し、11月中旬~12月に収穫が始まります。これが、我が国の一般的なイチゴ促成栽培です。
これに対し、種子繁殖型品種では、種苗事業者が5月に播種した小さな苗(セル苗)が流通することになります。生産者はセル苗を購入し、ポリ鉢などで育苗すれば、従来の品種と同じような管理で栽培することができます。これを二次育苗法と呼んでいます。親株保管やランナー管理の必要がないうえ、病害虫感染リスクが大幅に低下するので、育苗労力を80%近く削減することができます。
また、セル苗を直接本圃に定植することも可能です。この場合、本圃では窒素吸収が盛んになり花芽形成が遅れがちになるので、花成誘導技術がポイントになり、適切に管理すれば12月から収穫開始することができます。これを本圃直接定植法と呼んでいます。この方法では、育苗は必要なくなり、育苗労力がゼロになるだけでなく、育苗施設の投資経費を省いてしまうことも可能になります。
さらに、生産者が自ら播種しセル苗を育てることから始めることも可能です。この場合、種子代はセル苗購入費の約半額になることが期待できます。しかし、播種から発芽まで2~3週間かかり、この間の管理が悪いと発芽率が大幅に低下してしまうので、適切な播種後管理技術を習得する必要があります。


その3:大規模生産・小規模生産・閉鎖型施設栽培

 次世代施設園芸の振興に伴い、各地で大規模施設の建設が進んでいます。そのような大規模施設において、来年から2ha分14万株が必要といっても、従来の栄養繁殖型品種では、そう簡単に手配できるものではありません。2~3年前から準備に取りかかる必要があるでしょう。種子繁殖型品種なら、このような大規模需要にも速やかに対応することができます。
 逆に、都市近郊などでイチゴを作れば近所で売れる、だけど、前の年から親株を準備し、自分で苗作りをするのはとてもできないという小規模生産でも、種子繁殖型品種なら栽培できるようになるでしょう。
 また、人工光型植物工場など、外部環境の影響を受けることなく清浄な栽培空間を保てる閉鎖型施設では、種子繁殖型品種を用いれば、施設内への病害虫持ち込みのリスクを大幅に減らすことができます。
 さらに、ホームセンターなどで売られる苗の生産も、種子繁殖型品種なら容易になります。

その4:種子の輸出も検討可能に

イチゴの種子繁殖型品種は、F1品種になります。F1品種は、特定の両親の交配によって種子を生産します。また、F1品種同士から種子を採っても、兄弟間でばらついてしまい品種として使い物になりません。

 


F1品種では、両親が流出しない限り、その品種の種子を生産することはできません。そのため、両親を厳重に管理して国内で種子を生産し、種子を輸出するというビジネスが可能になります。
一方、イチゴの場合、ランナーによりクローン増殖できてしまうため、従来の栄養繁殖の品種は1株でも海外に流出してしまうと、勝手に増殖されてしまう懸念がありました。種子繁殖型品種でも、同様に、クローン増殖できてしまう懸念はあります。しかし、種子から育てないと、育苗の省力化や無病苗生産といった種子繁殖のメリットを享受することができません。
「よつぼし」の場合、種子の輸出は、相手国で育成者権を取得したとき、その国内での利用に限って認められることになりました。育成機関と、それらと連携したパートナー企業で、現時点で海外10カ国への品種登録出願手続きが進められています。