播種管理方法(促成栽培二次育苗用)

 イチゴの種子は、温度や水分状態が好適なときでも、発芽するまで2~3週間を要します。この期間の管理が悪いと発芽率や揃いが大きく低下します。また、発芽したての苗は小さく弱いものですから、注意深く観察し、大切に育ててください。
 本マニュアルは、イチゴ栽培プロ向けの促成栽培用管理方法です。生産者が播種から行う方法には、セルトレイに1粒播きする方法、育苗箱等にバラ播きする方法、二次育苗に移行する方法、本圃直接定植法に移行する方法があります。それらの中で最も取り組み易い、種をバラ播きして一次育苗し、ポットに植え替えて二次育苗する方法を紹介しています。

1.播種管理の注意点

(1)温度:適温は日平均気温20~25℃程度です。温度が低いほど発芽まで日数が掛かり、温度が高すぎると乾きやすくなります。
(2)水:播種後の乾燥は厳禁。発芽までに一度でも乾いてしまうと発芽率は極端に低下します。保水性、排水性ともに良い培土を使って、培土の表面が乾かないようこまめに潅水してください。
(3)光:基本的には好光性種子です。種子に光が当たっている方が発芽が良くなるので覆土は不要です。ちなみに、暗黒条件でも発芽するので、播種から7~10日間程度、水稲育苗器などに入れ、発芽を促すことも有効です。
(4)酸素:発芽にも、その後の根の発育にも酸素が必要です。長期間、水が溜まったままにならないよう注意してください。
(5)発芽後の管理:発芽直後は根が小さいので乾燥は厳禁です。乾かないよう注意してください。また、小さな苗は病害虫のダメージが深刻になります。病害虫に感染しないよう注意し、こまめに見回って早期に発見し、発生初期に除去等対処するようにしてください。

2.準備するもの

(1)培土
 適度な保水性があり、排水の良い培土が適しています。播種から発芽まで種子が乾くと発芽率が大きく低下するので、乾きやすい培土はオススメできません。また、培土に肥料分が含まれている方が、発芽後の生育がスムーズになります。
(2)育苗ポット
 9cmポリポットがお薦めです。適度な深さがあって底面給水が安定します。また、大きな育苗箱では、炭疽病菌等が侵入したとき、育苗箱全体に拡がり被害が大きくなります。ポットに小分けして播種することで、発病したときの廃棄量を必要最小限に抑えることができます。
(3)底面給水トレイと不織布
 深さ5cm程度の底面給水トレー。エブアンドフロー方式(一旦水を満たし、培土に吸水させた後、余分な水を排出する方法)にするため、幅10cm長さ30~40cm程度の厚めの不織布を準備します。
(4)育苗ベンチ
 発芽したての苗は病気に弱い状態です。病原菌の飛び込みがないよう、育苗箱は、地面に置かず、台上で管理してください。
(5)潅水チューブ
 自動潅水にするときは、底面吸水トレイの上、ポットとポットの間に点滴タイプの潅水チューブを這わせ、タイマーで水量を調整してください。

3.播種時期

 5月上旬から中旬が目安です。気温が低いほど播種から発芽までの日数が長くなり、高いと乾きやすくなるので、日平均気温20~25℃が適温です。温度が低いときには、播種から7~10日間程度25℃設定の水稲育苗器等で加温すると発芽揃いが良くなります。

4.播種と覆土

 9cmポリポットに培土を入れ、たっぷり潅水します。培土表面が落ち着いたら、ポット当たり30~50粒程度の種子をバラ播きします。好光性種子なので、覆土は不要です。播種し終わったら、優しい水流で頭上潅水してください。

 

5.潅水方法

播種から発芽までに一度でも種子が乾燥すると、極端に発芽率が低下することがあります。平均発芽日数は11~15日程度で、発芽揃いまで3週程度必要です。この間、常に培土の表面が乾かないよう、頭上潅水と底面給水を併用し、こまめに潅水してください。
頭上潅水は、細かい水滴の出るハス口を使って、種子が飛び散らないよう優しく行ってください。
底面給水は、底面吸水トレーに水を満たし、ポット内の培土に水を浸透させます。不織布をトレーから外に垂らしておいて、トレー内の水を自然に排水します。給水は、培土表面の水分状態をみながら、1日1~2回程度行ってください。
自動でトレーに吸水する場合は、トレーの上、ポットとポットの間に点滴タイプの潅水チューブを這わせておきます。水量はタイマーで設定してください。
種子が発芽してからも、発芽直後の苗は小さいので、根域が乾かないようにしてください。発芽後は、炭疽病感染に注意が必要で、頭上潅水を減らし、底面給水を主体に切り替えます。

 

6.施肥 

 培土に含まれる肥料成分に応じ、肥料が切れる前から、週に1~2回程度、ジョロ等を用い、たっぷりと液肥を施用してください。肥あたりしないよう、液肥の濃度は薄めにします。

7.鉢上げ

 セル苗の二次育苗鉢上げ時期より1週間程度早く、7月初め頃に、二次育苗用のポットに1株ずつ鉢上げします。セル苗より早くする理由は、散播苗はセル苗よりも根量が少ないためです。
 ポットから苗を抜き出し、土をほぐして1株ずつつまみ、鉢に植えます。混み合っているので徒長していますが、伸びているのは葉柄なので、新しい葉が出てくれば正常に戻ります。また、影になっていた株は成長が遅く、株間の生育差が大きいことがありますが、二次育苗の間に追いつくことができるので、かなり小さい株まで使うことができます。
 二次育苗用のポットは、各生産者の既存のものを利用できます。ただし、密度が高すぎると、株の生育が芳しくなく、花芽分化の遅れの原因になることがあります。株間12cm程度に配置できる育苗システムをお薦めします。
 鉢上げした後は、二次育苗法マニュアルを参考に管理してください。

 

<謝辞>
このマニュアルは、革新的技術開発・緊急展開事業(うち地域先端プロジェクト)「種子繁殖型イチゴ品種「よつぼし」の全国展開に向けた省力栽培体系とICTによる生産者ネットワークの確立」(2016~2018)の研究成果をまとめたものです。