これまでの栄養繁殖型品種
今、世界に出回っているイチゴは、ランナーといわれるツルの先にできる子苗を増やし、増殖します。これを専門的には栄養繁殖といい、親と子はクローンなので、クローン増殖ということもあります。子は親の分身で、同じ遺伝子組成ですから、均一な株を容易に得られるます。このことが、栄養繁殖の最大のメリットです。しかし、これでは増殖効率が悪いうえ、もしも親株が病害虫やウィルスに感染していると、それが子苗にも伝染してしまいます。今のイチゴ生産では、壊滅的な被害をもたらす深刻な病害が蔓延しており、親から子への病害虫伝染は大きな問題になっています。
新しい種子繁殖型品種
種子繁殖型のイチゴは、これまでの栄養繁殖とは異なる新しい品種として登場しました。家庭園芸用としてイチゴの種が売られていることがありますが、農業に使える種子繁殖型品種は、世界でもまだ数例しかありません。日本では、2008年に千葉県が開発した「千葉F-1号」が第一号、続いて、三重県、香川県、千葉県と九州沖縄農業研究センターが共同で開発した「よつぼし」が第二号になります。種子繁殖型品種では、栄養繁殖に比べ増殖効率は抜群に高く、しかも、種子を経由して伝染する病害虫やウィルスはほとんどないため、病害虫のいない優良種苗を効率よく得ることができます。この2つの利点のため、イチゴの種苗供給と生産体系に大きな変革が生まれます。
なぜ今までなかった 何が変わった
種子繁殖型品種の開発は、栄養繁殖に比べ、どうしても手間が掛かってしまいます。そのうえ、イチゴは八倍体で、種子繁殖にするのは一層難しいという先入観がありました。それにも関わらず、イチゴの場合、種から育ててもランナーが発生し、栄養繁殖もできてしまいます。栄養繁殖なら簡単に増やせてしまうので、せっかく開発した品種の権利が守りにくいという状態でした。これではビジネス的に割に合わないことから、イチゴでは民間企業の育種取り組みが遅れています。
ところが、2004年に品種識別DNAマーカーが開発されて、状況が一変しました。果実でも葉でも、植物体が少しでもあれば、何の品種か簡単に分かってしまいます。これで、違法増殖に対抗することができるので、種子繁殖型品種の開発は、ビジネスとして成り立つものになりました。しかも、従来の栄養繁殖型品種の開発も、競争激化の中で、より優れた品種を生み出すことが年々難しくなっています。栄養繁殖型でも、種子繁殖型でも、優れた品種を生み出すのが難しい中で、今回、「よつぼし」が誕生しました。
「よつぼし」の誕生により、種子繁殖型品種の利用面でのメリットがクローズアップされ、今後は、多くの種子繁殖型品種が開発されると予想されます。